学芸員室の雑記帳

十館十色~企業博物館その(9)~

日本は業歴が長い企業が多く、世界的にも企業博物館が多い国である…

企業博物館に関する文献を覗くと、このようなニュアンスの文章がしばしば見受けられます。老舗が多いという点に関しては、当館が以前開催したテーマ展示「老舗の姿 2022」において老舗数を海外と比較した際に、日本は第2位のアメリカの約2倍となる40,409社が挙げられ、数値上でも老舗大国であることがわかりました。

その流れで「=世界的にも企業博物館が多い」という文章に疑問を感じていませんでしたが、実際に比較した数値はあるのだろうか?と思い調べてみると、意外にも海外の企業博物館数を取り上げたデータは少なく、明確な裏付けとなるものは見つけられませんでした。

企業博物館は、線引きが曖昧であったり、公営でないため情報が入手しにくいものなど、国内だけでもリストアップして館数を明記するのは困難であると感じています。(当館のデータでは美術館・水族館・動物園を含まないなど、さまざまな条件のもと、約700館としています)

そんな状況下で、一言で海外といっても、つまりは日本以外のすべての国のことですから、網羅するにはかなりの時間と労力が必要です。データが少ないのも頷けます。引き続き情報を探していると、当館が2013年におこなった特別企画展「企業博物館-逸品解題-」の際に参考にした海外企業博物館リストを見つけました。

このリストはトータルメディア開発研究所が2000年に発行した『ミュージアム・ディレクトリー Vol.3 コーポレート・ミュージアム』。海外博物館関連文献およびインターネット情報からリストアップしたものの中から、アンケートの有効回答80館の情報を35項目にわけて詳細に記しています。この『Vol.3 コーポレート・ミュージアム』によると、回答を得られなかった施設も含めた海外主要企業博物館は434館。各国1~197館と差はあるものの、28ヵ国の合計が日本の館数に届かないことを考えると、「世界的にも企業博物館が多い国」という文章の一助になったでしょうか。

また、当館の「老舗の姿 2022」でパネルにした世界の老舗数ランキングと、『Vol.3 コーポレート・ミュージアム』にある434館を国別にランキングしたものを比較すると、上位10ヵ国中8ヵ国が一致しており、老舗が多い=企業博物館が多いという法則の信憑性が高まったと感じます。