2017年11月30日(木)
たのしい挑戦
山形市にある本店の建物は、街なかに10ある「やまがたレトロ館」のひとつとして街歩きの主要スポットにもなっています。
2015年に刊行した『別冊Muse2015』の座談会では、佐藤正三郎さんに、佐藤屋を営むご実家に残された記録史料や店舗に関してお話しいただいています。
先日山形の産地取材で付近を訪れたため、運よくその本店に立ち寄ることができました。
初めてうかがった店舗は、まるでミュージアムのよう...というと語弊があるかもしれませんが、そんな印象を受けました。
誕生の背景や、商品名の由来など、それぞれにストーリーが存在するお菓子。凝った見た目のお菓子の美術館、という見方もできますがそれ以上に、お菓子そのものが、個々のもつ歴史を語る史資料にも見えました。
店頭でも存在感があった和菓子「たまゆら」は、のし梅の新たな可能性を求めて生まれ、ワインや日本酒にも合うそうです。お菓子とお酒との相性は開拓中であるそうで、「たのしい挑戦」と紹介されていました。
佐藤屋をあとにして次へ向かう道すがら、旧県庁舎のバルコニーで写真撮影を無邪気に楽しむ団体の観光客が目に留まりました。
大正初期の洋風建築が残された国の重要文化財であるその建物は、現在山形県郷土館として公開されています。
当初は文書館として活用される計画があったものの、その負担の重さから観光施設として転用されたという、座談会で佐藤さんが語られたエピソードを、ふと思い出しました。
随所に歴史の足跡が見られる山形市の中心市街地。
残された建物や景観それぞれに役割があるなかで、佐藤屋本店では、過去としての歴史ではなく今に至るまでの変化を体感できる空気が流れているようでした。
名産であった山形の梅のおいしさを伝えてきた「のし梅」が根底にあってこそ生まれた、新たなお菓子。200年続く佐藤屋の奥深さが感じられるとともに、これから先も、時にかたちを変えながら歩んでいくことを予感させます。
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