学芸員室の雑記帳

「タイパ」についての一考

先日、大手出版社の三省堂が「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2022』」の選考結果を発表したというニュースを目にしました。この選考は、その年「よく見た」、「よく聞いた」言葉を一般公募し、辞書編さんに携わる専門家たちが一語一語厳正に審査するというもの。応募総数延べ1,041通(673語)のなかから選ばれた今年の大賞は…。

「タイパ」

賞とともに発表された、三省堂の各種辞書編さん者がつけた「国語辞典風味」の語釈(語の解釈・説明)によると、「タイパ」とは。
「タイムパフォーマンスの略」、「時間効率」、「コスパ(=コストパフォーマンス)にならってつくられた語」、「録画したドラマや映画を倍速で試聴する、粗筋だけ分かるように編集されたファスト映画を見る、音楽のさびのみを聴くなどの行動に見られる、できるだけ時間を掛けずに効率よく成果を得ようとする風潮の中で多く使われる」とされていました。

総務省が発表しているデータでは、2002年のインターネット全体の情報量を10とすると、2020年は6000倍にものぼるとのこと。コロナ禍で効率化、デジタル化が急速に進む今日「タイパ」重視の行動は、無限に提供され続ける情報やコンテンツの海を徒労感なく渡るための知恵ともいえるのかも知れません。まさに「今」を象徴する新語だと、興味深く感じました。

さて、当館の「今」に目を転じてみますと、非常に「タイパ」が悪い作業と格闘中です。スタッフで手分けをし、100年ほど前の資料の翻刻に取り組んでいます。筆や、ペンでくずし字まじりで記された文章を丁寧に読み進めるためには、たくさんの時間を費やし、根気強く挑まなければなりません。倍速で翻刻して特筆すべきところだけ救い上げてくれるような画期的な技術があったらいいなとも思いますが、地道な作業こそ、史料館の仕事の醍醐味でもあります。さらにその中から、後世に残して伝えなければと思えるような事実や記録が残っていたのなら…。「タイパ」の悪さなんてなんのその。時を超える価値を求めて、今日も粘り強く資料に向かいたいと思います。