学芸員室の雑記帳

体験者の言葉

1995年1月に発生した阪神淡路大震災から数か月後、被災した知人から、当時の体験を聞く機会がありました。連日ニュースや新聞で街の被害状況は報じられていましたが、体験者本人から聞いた「タンスの引き出しが一気に飛び出してきて怖かった」、「避難の際、玄関口の枠がゆがんでドアが開けられなかった」、「家族に会うため、神戸から大阪方面を目指してひたすら線路沿いを歩き続けた」という言葉に、大きな衝撃を受けました。

時間の経過とともにその体験談を思い起こす機会は減っていきましたが、2011年3月、都内で大きな地震を感じた際には、知人の言葉が突然鮮明によみがえったことを覚えています。自身の安全と避難経路の確保、家族への連絡…。体験者の言葉を聞く意義を改めて知ったような気がしました。

さて、当館常設展示室テーマ展示コーナーでは、現在「関東大震災と帝国興信所」が開催中です。
展示では、当館に残る関連資料をもとに、帝国興信所が関東大震災をどのように報じ、乗り越えたのかひも解きます。208人の社員一人ひとりが綴った『震災手記』や、創業者の著書『後藤武夫伝』に残された記録、出版物『帝国興信所内報』の記事から読み取る震災と信用調査、さらに、震災前後の企業数や信用取引数の変化をデータで取り上げることにより、発生から100年の節目に、その被害状況と復興への軌跡をたどる企画です。

常設展示においても扱っているテーマではありますが、今回は初公開の資料も含め、より多くの記録を取り上げます。見学を通して、関東大震災体験者が語ったさまざまな言葉と出会い、心にとめていただく機会となりましたら幸いです。

準備が整い次第VRでも公開予定です。
ご来館を心よりお待ち申し上げております。