2021年2月 4日(木)
娯楽小説

学芸員室でも自宅でも人と話す機会の少ないなか、整体は雑談という会話力が鍛えられる貴重な機会です。雑談のなかでも常道の「最近どんな本を読んだか」という話題に、ぱっと浮かんだ本はその日原稿の参考に読んだ『民事訴訟・執行・破産の近現代史』と創業者の自伝でした。そこで初めて最近はいわゆる参考文献としてしか本を読んでおらず、娯楽小説をほとんど読んでいないことに気がつき、愕然としたところです。
最後に読んだ小説の記憶を辿ると、カミュの『ペスト』に思い当たりました。娯楽でもないですが、コロナ禍の今だからこそ手に取った本です。ペストのために封鎖された架空の街の様子が淡々と描写され、コロナ禍の不安な気持ちをさらに暗澹たるものにさせてくれます。とりわけ印象深いシーンは、ペストの猛威が収束し街が解放され、封鎖で離れ離れになっていた若い恋人たちが待ちに待った再会を迎えたときの場面です。青年は自分がペストの流行前とは変わってしまい、ペスト前には戻りたくても戻れないことを悟ります。このコロナがいつ収束するのか、手放しで喜べる日がくるのかまだ先はわかりませんが、よくも悪くもコロナ前にはもう戻ることはできないのだろうとしみじみと思います。
本といえば最近、山形の老舗ののし梅屋さんから、創業200年を記念した冊子をいただきました。お店に残る資料を自ら整理され、まとめられたものです。以前、資料整理の現場に顔を出したこともありますが、さまざまな関係の人が集まり賑やかに目録をとる様子は、まさに草の根アーカイブズの実践でした。企業の歴史は、その産業の歴史であり、土地の歴史でもあります。本書には、佐藤屋の歴史と併せて山形ののし梅業界についても詳しく書かれています。
日本は社史大国で、史料館の水道橋分室にもたくさんの社史が配架されています。気になる会社の社史を読んでみるのもいいかもしれません。でもまずは、娯楽小説。原稿がひと段落したら、久しぶりに推理小説でも読みたいと思います。
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