学芸員室の雑記帳

四年間

「駅からハイキング」の様子

かつて帝国興信所に勤務していた時代小説家、山本周五郎の作品に『四年間』という短編小説があります。

この物語は、自らの余命が4年であることを知り、仕事も結婚もあきらめ悲嘆に暮れていた主人公が、婚約者の言葉に励まされ、希望を取り戻していくまでの姿を描いた作品です。残された時間と向かい、その意義を再考していく主人公と婚約者のふたりの心の機微を通し、不確かな日々をいかに過ごすべきかという問いを読者に投げかけながら、ストーリーが展開していきます。

長いようで短い、短いようで長い、4年という月日。人それぞれのとらえ方、切り取り方があるかとは思いますが、この短編を手に取って以来、時の流れと自分の行動を省みては、この『四年間』の主人公を思い起こすようになりました。

さて、当館は先週末、JR東日本四ツ谷駅主催イベント「駅からハイキング」のコースの見学ポイントに指定していただき、休日特別開館をしました。過ごしやすいウォーキング日和となった土日は、2日間で約850名ものお客様がご来館くださいました。記録によると、前回休日開館を行ったのは、5年前のこと。新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された4年を経て、ようやく少し、開かれた史料館に戻ることができたように感じられました。

周五郎の『四年間』の中には、「その四年を八年にも十年にも生かして仕事をすべきなんだ」という一節があります。お客様からいただく「面白かった」「見学できてよかった」の声を励みに、臨時休館や団体受け入れの中止などを乗り越えた経験が、今後の史料館活動に生かせたら…。そう思うと、休日出勤の疲れも少し心地よく感じた、今日この頃です。