学芸員室の雑記帳

4年越しの回答

4年ほど前に練馬区立牧野記念庭園学芸員の田中さんが当館を訪れ、当社(正確には日本魂社)が発行した雑誌『日本魂』に牧野富太郎の記事が掲載されているかどうかを尋ねられました。『日本魂』の編集記者として在籍していた山本周五郎が牧野富太郎を訪問取材したというエピソードが残っており、その記事が『日本魂』に掲載されているのではないかとのことでした。そのエピソードについては全く存じませんでしたので、思わぬつながりに驚いて、改めて所蔵の『日本魂』を調べてみることになりました。当社が発行していた雑誌ではありますが、所蔵巻はわずか、周五郎の在職期間の発刊分にも抜けがあり、全巻を確認することはできませんでした。回答に時間をいただきながら、結局手持ちの資料からは該当記事を見つけることができなかったというお返事をして、そのまま月日が経ちました。

頭の片隅にあったエピソードを改めて調べることになったきっかけは、山本周五郎を取り上げた今回のテーマ展示でした。展示の中で、周五郎が取材した人びとを『日本魂』の記事と共に取り上げようと企画しました。当時の周五郎の感性や、取材経験がのちの周五郎に与えた影響を知るよい資料になると考えたからです。ただ、取材対象は軍人や政治家、学者など知名度が微妙な人物ばかり。どうしてもここは牧野富太郎を一番にもってきたかった。牧野の「雑草という名の草は無い」という名言は、とりわけ周五郎に大きなショックと影響を与えました。ただ、このエピソードには展示に耐える根拠がなく、肝心の『日本魂』の記事もありません。4年前とは異なり、周五郎が取材をしていた時期は相当絞れていますので、その間の『日本魂』は全巻確認することができました。これにより『日本魂』に牧野の記事は「ない」ことが判明しました。周五郎が記事にする前に退職してしまったのか、記事にできなかったのか、記事にすることを牧野に断られたのか、理由はわかりませんが、エピソードがありながら記事がないのは非常に残念なことです。

牧野と周五郎のエピソードについても、周五郎の研究書の中から著者が直接周五郎から聞いたセリフとしての記載を見つけ、どうにか裏を取ることができました。早速パネルに反映し、よりインパクトのある展示になりました。お問い合わせが4年越しにやっと実を結んだといえます。牧野記念庭園を訪れ、田中さんに改めて『日本魂』には記事が「ない」ことをご報告しました。エピソードの出典を確認できたことは、牧野研究にも意義あることだったようです。

牧野富太郎が来春の朝ドラの主役に決まり、ゆかりの高知県や練馬区では大いに盛り上がっているようです。今から放映が楽しみです。